「悟浄って甘えたがりでしょ」

普通に会話してて、どこからそんなこと思いついたんだってくらい、突拍子も無く口にされた言葉の意味を図りかねて、思考が止まる。
じっと瞳を覗き込まれて、不覚にも視線が泳いだ。

「なんだそりゃ」

かろうじて言葉にできても、バカみたいに見当はずれな答え。

「でしょ」

断定してくる口調が妙に自信ありげで、なんとなくうろたえる。
いつものニヤけた表情を取り繕う。

「んなコトねぇよ」

「そう?」

「ああ」

「ふーん?」

やけに含みを持たせるじゃねーか。

「なんだよ」

苛ついてぶっきらぼうに問い返す。
煙草を一本取り出して、咥えた。 ライターを弄んだまま、何かしら応えが返ってくるのを俺は待っている。

だけど、何も言ってこない――。
沈黙に耐えられない、無様な俺。
煙草を口から放してくしゃりと握りつぶす。

「何が言いたいんだよ、それで」

煙草をゴミ箱に放る。

「別に。何か言いたいのは悟浄のほうなんじゃないの?」

すました顔が、小憎らしい。
舌打ちして、どっかり椅子に身を投げ出す。

「…可愛げのねぇ女」

「あら、お褒めに預かり光栄だわ」

変わらねぇ表情と口調がうろたえる俺をバカにしてるみてぇだ。
そんなの俺の勝手な被害妄想だってのはわかってるんだけどな。
悔しいんだよ、なんとなく。

「そこが可愛くねぇって言ってんだよ」

憎まれ口にもお前は動揺しないってのはわかってるのに、ホント、バカみてー。

「あ、そう」

「ホント可愛くねぇ」

むっつりと俺はむくれる。

「――で、俺が甘えたがりだったらどうだっていうんだよ」

「? ただそうだなって思っただけ」

なんだそりゃ。
なんでそんなどーでもいいこと言い出したんだよ、何の意味もなく。

「そうだったらどうなんだ? 甘えさせてくれんの?」

からかってやれ。
いつもの軽口。

なのに。
なんでそんな真剣な表情で俺を見るんだ?

「甘えたいの?」

聞かれて、思考が止まった――。

誰もンなコト言ってねぇ、
言い返す前に声を塞がれた。

引き寄せられた両腕の中、肌に直に響く鼓動。
気がつけば細っこい腕の中で抱きしめられていて……。
呼吸が一瞬停止する。

「っい…――」

「よしよし」

ぽんぽんとあやされるように優しく叩かれる背中。
椅子に座ったままの俺と立ち上がったおまえ。
俺はおまえを見上げなきゃその表情は見えない。

「――ガキじゃねぇんだよ」

気恥ずかしくてもどういうわけだか振り解けない。
身体が椅子にくっついちまったみてぇにびくともしねぇ。
こんなところアイツらに見られでもしたらいい笑いものだ。

「回りくどいのよね、悟浄って――」

「あァ?」

視線だけ上にあげて見れば、微笑っていやがる。
…なんか、俺、今、ガキが保母さんなんかに惚れたりする理由を悟った気が――。

「口説き文句、あれ、遠回しだけど“甘えたい“って言ってるでしょ」

「――言ってねェよ」

「言ってるのよ、全身で。甘えたいって。そう、聞こえる」

空気を震わすまでもなく、声が直に届く。
少し低くやけに響いてノイズが混じるが――悪くはない、かもしれない。

「そりゃおまえの聞き間違いだ」

離せ、とか言えなくて、というより言いたくなくて、ただじっと抱かれたまま。
どんな気持ちイイ瞬間よりも、ずっとイイ。

「そう?」

「ああ」

「…やっぱ違うよ」

あん?

「悟浄の“抱きたい”って“抱かれたい”だと思うから」

 

「・・・・・・ッカじゃねェの?」

ンなワケねぇよ。
笑い飛ばそうとして、失敗した。

それはきっと、あまりにもおまえがあったかいからだ。
自分でも気づかなかった本音を隠すための盾を溶かしちまうからだ。

気づかなくても良かったんだよ――。
そんな、こと。

沈めてたんだよ、ずっと、ガキの頃から。

 

 

あの人に

 

あたたかく

 

抱きしめられたい

 

 

――なんて。

 

だって、ンなこと言えるワケなかったし、
臆面もなく言えるほど俺はガキじゃなかった。

あの人の、
ガキじゃ、
なかった――。

 

ガキのようにただ抱きしめられる。
それだけをただ、欲していた。

「いいんじゃない、たまには素直に甘えたいって言ってもさ」

ひねくれもんにはそれが難しいんだよ。

呟いて目を閉じた。

でも、そうだな――。
おまえになら言えるかもしれない。

ちらりと見上げて、いつのもようににやりと笑う。

「じゃあさ、今から俺をイかせてくれる?」

 

微笑が引き攣った。

「却下」

ぽんっと投げ出されるように解放される。
あたたかさが少し遠のいた。

「素直になれって今言ったじゃん」

「嘘、今の絶対素直じゃなかった!」

「俺の一番素直な思いを嘘とか言うか、ふつー」

「素直にってのは、あけすけにって意味じゃないわよ」

「んじゃおまえが嫌いっていう遠回しな口説き文句でも使おうか?」

「……悟浄って、んっとに可愛くないわねぇ」

「誉めてくれてアリガトウ」

「うっわ、カワイクなーい」

「いいの、俺、男の子だモン」

かわいくなーい!って笑うおまえ。
ホントのこと言うと、可愛げがねぇなんて嘘だよ。

俺、ひねくれてるから。

「なァ?」

振り返ったおまえ。

「もうちょっとだけ抱きしめてくれない?」

本音を言えば、抱キタイ抱キシメテホシイ、なんだけどな――。

 

 はい、一人だけ後からアップ、悟浄編でした。タイトルがすでに恥ずかしい。

冒頭部分だけは3人と一緒の時期に作ってましたが、どうしてもその後が続かず、今ごろになってしまいました。
4人の中で一番甘い、かも――。接触率が高いし(笑)
いや、三蔵のほうが得してるといえば得してるけど。

みんなそれぞれに原作の一部を使わせてもらってます。
悟浄って“愛されたい”っていう衝動で女性を口説くと私は思っています。
(まぁ、もちろん純粋に欲望もあるでしょうけど(笑))
愛されたい、あたたかく抱きしめられたい。
常に女性に母親の愛情を求めているのではないかと、勝手に思ってます。
だから、こういう話にしてみました。

なんか……保母さんに憧れる男の子の気持ちがわかりました(笑)

2003.10.15

 

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