何もすることがなくて。
こういうとき大抵は腹が減るんだけど、どういうわけか今日はそんなことはなくて。
暇、過ぎて嫌な気分。

嫌な気分。
あの独りで過ごしていた日々が戻ってきたような。
そんな感じで。
無性に哀しくなってた。

だから、あたたかな気配が近づいくるのがわかって少し気持ちが浮上した。

「お、暇そうだね、少年」

目の前に飛び出した、ヒト。
ぶら下げているバケツが妙に目立っている。

「そのバケツ何?」

「花火しよう、線香花火!」

かたりと置かれたバケツをのぞけば、ライターと線香花火。
そのライターには見覚えがある。
青く透明のプラケース、値段は100円。
まだオイルがたっぷりとあるそれは、悟浄が購入したばかりのもの。

「んじゃ、ちょっとこれ持っててね。水汲んでくっから」

ほいほいと花火とライター手渡される。
まだ、やると答えていないのに。

「俺、そんな気分じゃない」

つぶやく。
怒るかなと思ったけれど、あたたかな気配は変わらない。
――…怒ってもいいのに。

「見てるだけでいいよ。見るのも嫌?」

「……ううん」

あたたかなあなたの傍にいたい。
花火なんかどうでもよくて、ただ傍に。
あんまり優しく笑うから、つられて微笑んでいた。

水を張ったバケツ。
たよりない線香花火を持って、ライターで直接火をつける。

蝋燭は?聞いたら、明るすぎて風情が出ないって。

やがて火花が散りだして洸(ほのか)にあたりを照らす。
知らないうちに食い入るように花火を見つめている。

ひゅ…と、突然花火が消えた。

「あっ……」

赤い花火の光になれた眼は、急な暗闇についていけない。
暗闇の中で声だけが聞こえる。

「うーん、なかなか最後までってのは難しい」

残念そうに手の中に残った、花火だったものをバケツに放ったのがぼやけて見えた。
そうしてまたぱっとライターの火がついた。

「ねぇ」

「俺もしたい」

やりたくないといったのに。
傍にいることだけで良かったのに。
あんなに簡単に散ってしまうから、とてももったいなくて。

手渡された1本の花火に火がついた。

小さな振動が指先を揺らす。
大きくなっていく赤い珠を落とさないようにじっと見つめる。

「知ってる、悟空?」

「何を?」

大きく弾けだす火花を慎重に見守りながら答える。

「線香花火を最後まで燃やしつくしたら、恋愛が成就するって」

ぽとり。

 

珠は落ちた。

 

 

また暗闇が――。

 

 

 

「そんなの迷信だろ」

手の中の花火の残骸が、湿ってる。

「かもしれない」

「迷信だよ」

なかなかバケツに放り込めない、ただの紙屑。

「違ったら――?」

なんで、
なんで泣きそうになってるんだろう、俺は?

「――もう一本くれっ!」

 

 

 

何度も暗闇と洸な明かりが交互に訪れる。

迷信なんだ。
こんなので本当に成就する分けない。
言い聞かせても、花火をしつづける。

「最後、だよ」

手渡された花火に祈る。

どうか、最後まで、綺麗に咲いて――。

 

 

 

「暇じゃなくなったでしょ?」

かけられた声に顔を上げる。
あたたかな笑顔。

花火が咲き続けている。

「成就するといいね」

想いも咲いて――。

「うん」

最後の線香花火は、最後までゆっくりとその身を燃やした。

 

 

暗闇がもどってきても、そこにはもうあの日の寂しさはない。

「なぁ――」

「ん?」

線香花火。

迷信なんかじゃ、ないよな。

 

 

 

 久しぶりにSSを書いてみました。
しかも何を思ってか、「最遊記」の悟空視点で相手は勝手に作って出しちゃったり(爆)

少し前にドリー夢小説を散々書き散らしてしまって、その名残です。
だから、相手は基本的に全て“あなた”に設定してお読みくださればよろしいかと。(^^;

季節外れの線香花火。
ちょうどこの話を書いたのが9月の中ごろ。
そのとき高校の友人と集まって公園で花火をしたばかりでした。
それがすごく印象深くて、夏の最後!って感じがして、素敵だと思ったのです。

線香花火の迷信、皆さん知ってますよね?
あれ、恋愛成就じゃなくて願いが叶うでしたか?
まぁいいや。もう書いちゃった後だし(笑)

なんだか嬉しくてせつなくて、ちょっと泣きたくなっちゃう気分になってもらえたら幸いです。


実は、三蔵と八戒のも書いてたりするのでそのうち上げようと思います。
やっぱり相手は“あなた”でお読みくださるのを、激熱望!(笑)

2003.10.10

 

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