数えた雨粒の音だけ花喃の笑顔が脳裏に蘇る。
咽喉元にナイフを突きつけて、笑顔で逝った彼女の最後。
守ってやることもできなくて、助けることさえできなかった。
思い出して後悔しても何も変わらないことだとわかっているのに、雨の音は嫌でも記憶を呼び起こす。

「…八戒、いる?」

遠慮がちにかけられた声が僕の胸を締め付ける。
今は会いたくない、ひと。

「――こないで、ください」

こんなに震えた声が僕の声なんでしょうか。
なんてみっともないのだろう…。

「おかゆ、作ったの。何か食べなきゃ」

気遣ってくれる優しさが、僕を苛むことをあなたは知らない。

「いりません」

「でも昨日から…」

「いらないといってるでしょう…!」

自分勝手な苛つきを当てつけるべきじゃないのはわかっているのに、とめられない。
それは、僕の弱さからくるものだ。
あなたの顔が見れない。
傷ついたかもしれない…傷つけてしまった…。
じくじくと痛む胸を抑えて、出来るだけ苛立ちを抑える。

「…ごめんなさい。本当に、いらないんです」

僕を苛むのは僕の心。
花喃を愛しているのに、あなたに惹かれていく。
花喃を守れずに死なせてしまったというのに、のうのうと生き長らえてあなたに恋着する。
過去の僕が現在の僕を責めるんです。

「わかった。食べたくなったら、来て」

いつもとかわらないあなたの態度。
僕を責めるでもなく、怒るでもなく、同情するのでもなく。

だから惹かれる。

わかったといいながら、そこから動こうとしない。

「いって、ください」

花喃。
花喃。
花喃。

呪文のように雨音が囁く。
治ったはずの傷が痛み出す。

花喃。
花喃。
花喃。

あなたは笑いながら僕を責めているのでしょう?

「僕に構わないでくださいっ!」

 

「嫌よ」

ぴしゃりと頬を打つしなやかな掌。
軽い衝撃に雨音が途切れる。

「雨が降るたびにそうやって感傷に浸るの?
 戻れやしない過去を、ただ後悔して自分を責めるの?
 自分だけが不幸な顔して?」

「あなたにはわからない」

「ええ、わかりたくもないわ」

かっとして反射的にあげた手があなたのやわらかな頬に振り下ろされる。
それが自分の腕だとは、思いもしない。
走る痛みから自分の行為に怒りを抱く。

赤く痕の残る頬。
それでもあなたは顔を上げて、何もなかったように僕を見つめる。

「…そんな風に見ないでください」

「どんな風に?
 私はあなたを責めたりしていない。
 それとも、あなたは私の所為にして自分自身を責める理由を見つけてるの?」

穏やかな口調がまっすぐ僕に向かってくる。

そう――

あなたが責めるんじゃない。
僕自身があなたの所為にして、僕を責める。

花喃も僕を責めたりしない。

「――責めてくれたほうがずっといいのに」

この、どこにも行き場のない後悔を解き放つ術がない。
責めて、ほしかった。

泣いて、喚いて、叫んで、罵倒して、僕を責めてくれれば、もっと楽だったのに。

「花喃――」

呼んでも答えるひとはいないのに。

ひんやりとした指先が伝う涙をすくう。
ただそれだけで、また僕はあなたに強く惹かれる。
花喃の名を呼びながら、想いながら、あなたがとても愛しい。

「自分を責めたって誰かを責めたって過去は取り戻せないでしょ。
 そんなのただの自己満足だわ。
 そんなに後悔したいのなら、何も雨の降る日じゃなくたっていいわ。
 晴れの日だって風の日だって雪の日だって後悔していなきゃ、間違ってる。
 そうじゃないのなら、さっさとふんぎりつけないと花喃さんだってイイ迷惑ね。
 私ならその泣きっ面に蹴りの一発でも入れるわ」

思わず笑った。

あなたなら本当にやりかねない。

そして――

「花喃も間違いなく蹴りどころかコンボ技で入れますね」

「それが普通の人間の反応だわ」

「普通の人はそんなことしないと思いますよ」

雨の日に自然に笑えたのは初めてだ。
あんなにこの身を焦がした苛立ちもひいてしまった。
自分では抑えようとしても抑えきれなかったのに。

腫れてしまったやわらかな頬に触れる。

「すみません…痛かったでしょう?」

少し指先が触れれば、痛みで顔をしかめるあなた。
力の加減もできないほど、頭に血が上っていた。

「このぐらい八戒が笑えるようになったんだからどうってことない。
 あ、後悔とかしないでよ? 殴られ損になるんだから」

「――はい」

頬に添えた掌に気をためる。
誰かを癒すことの出来る能力なんて僕には不似合いな代物だ。
だけどあなたを癒すことができるのならこれ以上望むものはない。

あなたを癒しながら、僕が癒されてゆく。

「ありがとうございます」

小さな声でつぶやいた。
恥ずかしいから聞こえてなくてもいいけれど、ふとあなたの瞳が優しさに満ちて伝わったのだと知る。

花喃、あなたに対する想いは今も変わりません。
あなたを想いながら、この人を愛する。
後ろめたく思うことは何もないはずです。
僕はこれ以上後悔をしたくないですから。

 

 

 

 

 はい、やっぱり同じ日になりました。八戒編です。
本作の"花喃"エピソードを入れての、名前変換のないドリー夢小説です(苦笑)

もう、題名のとおり何もかもがイタいです!ぶっちゃけ!
どこをどうしたら、八戒で恋愛とかなるんでしょう。一番無さそなキャラじゃん。

まぁ、最初に「最遊記」で「ドリー夢小説」で「恋愛でGo」なコンセプトを作った私が原因なんですけどね。
難しい、難しい、八戒さんて。
まず花喃さんの事に触れないわけには行かないし。でも触れたら触れたで恋愛できねぇし・・・。
そんなこんなで、あえて“あなた”には体を張ってもらいました。

つまり、一番ありえない部分をさらにブっこむ、なんていう荒業です。
八戒に女性を殴らせたのはもしかして私が初めてなのでは!?
うわー、石投げられるぅー!!(笑:投げないでね)

でも八戒さんが本気で殴ったら首が吹っ飛びますよ、ってことで、ちゃんと最低限の手加減はしてるんですよー。(フォローが遅い)

 ではでは最後は悟浄ですね〜。
彼だけまったく出来てませんので(爆)、しばらくお待ちください。
設定はやはり“あなた”ですよv

2003.10.10

 

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