PERSONA 2 罰 (ATLUS)
今…この瞬間、
あの人は
どうしているだろうか―――微笑っているだろうか、それとも泣いているだろうか
俺のことを―
私のことを― 忘れているだろうかそれとも…――――――
† Lost Memory †
疲れ果てて微睡みながらも、研ぎ澄まされてゆく感覚。
どこからか聞こえてくる歌声に、浅い眠りからよぎなく覚醒させられる。
「―――しゃぼん玉…か」
そう…聞き覚えのある歌のフレーズ。
幼い頃の記憶を必死でかき集めて、歌詞を思い出そうと瞳を閉じた。あどけなく、そして少し音程のズレた歌声が廃墟ビルの中…達哉の元へ響いてくる。
懐かしい歌、懐かしい過去―――――。
七色に輝き、風の中を漂い、そして、
見とれる暇もないうちに壊れてしまう。
屋根までとんで、いや屋根までしかとばなくって泣きたくなる。 もっととんでいって欲しいのに。もっと永く存在していて欲しいのに―――。
もどかしいほどの想い。
達哉は抱えていた膝をもっと強く胸に押し付ける
あの頃は知ることもなかった。
しゃぼん玉のように儚く消える命が或ることを。もうすぐ…いや今にもこの世界は崩壊する。
さながら、しゃぼん玉のように。
あの人もあっけなく…ぱちん、とこの腕の中で……。
いや、あの人は生きている、向こう側で。
ただ、もう、そうきっと、会えやしない人になってしまっただけ。
わかっていた、理解していたっ…こんな切ない想いを自分が抱えてしまうこと。
…自分でちゃんと決めたことだから。
なのに、不安と想いと孤独が今になってこんなに募るっ…?!―――――歌、だ。
この声が、歌が、遠い過去をゆさぶる―――――。嫌だ、
嫌だ…願ってもしようのないことを願わずにはいられなくなる!
あの人に側にいて欲しいっ…!「……舞耶姉……っ」
こらえきれなくなって、応えてくれることのない人の名前を呼ぶ。
応えは
応えは、あった。
だがそれは、達哉の望む声でも言葉でもなかった。
耳障りで、ひどく脳にこびりつくように残る乾燥した―――――声が言う。「壊レテ消エル、コノ街ノヨウニ?」
その言葉に弾かれたように、達哉は顔を上げる。
◆◇◆
ぱ ち ん …―――
耳元で何かがはじける音…そして―――
「どうしたんだい、舞耶さん?」
振り返った舞耶の目に、やはり彼の姿は映らなかった。
もしかしたら…、と期待していた自分に気がつく。
割り切っていたはずなのに―――
舞耶はおもわず苦笑しながらも、まだ不思議な感覚の残る耳たぶにそっと触れる。
あれは…―――多分…
「ね…ユッキー、聞こえなかった?」
人も車も頻繁に行き交う交差点で、不意に立ち止まる舞耶に駆け寄りながら、ゆきのは首を傾げた。
「聞こえるって何がですか? こう車が多くちゃ聞こえるものだって聞こえませんよ」
言葉の続きを補うかのように、ゆきのは辺りを見渡す。
耳につくのは車と人の雑音だけで、他の音など掻き消えて聞こえないようなものである。
実際、舞耶とゆきのの会話も途切れ途切れの状態である。
「…声が、したの―――。それと」
今にも泣き出しそうな彼――達哉くんの声。
「あれは、しゃぼん玉のはじけた感覚だった―――」あれから何年も過ぎたわけじゃないのに、ひどく懐かしく感じる彼の声が深く沈めた想いをまた浮上させる。
(…ううん。彼の声が聞こえるワケ、ない)
だってもう彼は私のことは知らないんだもの。
「舞耶さん?」
心配そうにみつめるゆきのに、舞耶は全てを振り払うかのように笑った。
「ううん、なんでもない! 行きましょ、ユッキー!! 早くしないとまた水野編集長に怒られちゃうわよぉ!?」
(多分今、私泣きそうな顔してる…)
顔を見られたくなくて、舞耶はゆきのより先を少し速く歩く。
達哉くんは私を守ってくれたのに、私は彼を守ることも助けることも、側にいることさえ出来ない―――その事実が重く心にのしかかる。
達哉くんは今、助けを求めている…そんな気がする…。
それでも舞耶にはなにも出来ない。
あちら側の彼とはもう会えないのだから…。
交差点を渡る舞耶の耳に、立ち並ぶ店から聞こえてくる微かな歌。気になって耳を澄ます。
「……しゃぼん玉か」
ゆきのが小さく呟いた。しゃぼん玉消えた とばずに消えた
生まれてすぐに壊れて…消えた―――「…風、風…吹くな―――か…」
ぐっと強く両手で空を押す。
心地よい風が舞耶を通り過ぎる。
涙はまだ枯れないけど、一生枯れないかもしれないけど…今は笑って前をみつめよう。
そして今日は、昔の彼が教えてくれたようにもう一度…
「ね、ユッキー…しゃぼん玉やろっか? ね! そうしよっ!!」少し強い風でも、
壊れないように、
消えないように、
そっと優しくもう一度作ってみよう―――。
壊れやすいあなたを包み込むように。
たくさんのしゃぼん玉であなたを癒そう……◇◆◇
子ども…男の子だった。
「お兄ちゃんもやる?」
石鹸のやわらかな香りが辺りを満たす。
すっと目の前に差し出されたものを、思わず達哉は受け取っていた。
達哉の手には小さすぎる、可愛いピンクの石鹸水の入った容器とストロー。
男の子はちょこんと達哉の隣に座り込む。
突然のことにどうしていいかわからず、達哉は手の中の容器とストローを持て余す。
「僕うまくつくれないんだ、しゃぼん玉」
そういうとふっと強く吹いた。
しゃぼん玉はストローの先で球体になることなくはじけた。
「ね? あ〜あ、お姉ちゃんはすごく上手いのになぁ…」
「お姉ちゃん…?」
懐かしい響きに達哉は聞き返していた。
男の子は達哉の微妙な表情には気づかない。
ムキになったように、ますます強く息を吹き込んでいる。
またしゃぼん玉はすぐにはじけた。
そして泣きそうな顔で言った。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。僕たちといつも遊んでくれるんだ…でも―――」
本格的に泣きだしそうだった。
丸い形の良い瞳に涙が滲んでいる。
「でももう僕は一緒に遊べないかもしれない…! 僕だけできないんだ、しゃぼん玉…みんな…んなちゃんとできるのに、僕だけっっ…!!」達哉には弟はいない。もちろん、妹も。
だから子どものあやしかたなんて知るはずもない。
泣いてるところを見られないように、膝を抱えてうつむいている男の子をどうしてやればいいのか……。
慰める?
そんな器用なこと俺に出来るはずがない…。
どうすれば…いい?
こんなとき兄さんなら…?
達哉は手の中の容器を握り締めた。ふうっと優しく吹く。
ストローの先からいくつもの丸い虹色の球体が生まれてゆく。ふうわりと宙を流れてはじける。
達哉はまた優しく吹いた。
周囲でしゃぼん玉がはじける音が聞こえたのか、男の子は赤い瞳をあげた。
いつのまにか達哉と男の子の周りにはしゃぼん玉で満たされている。壊れても、はじけても、達哉はしゃぼん玉を作る。何度でもいくつでも…。
ちらりと窺った男の子の顔は嬉しそうに笑っていた。
「…ゴイ……スゴイよ、お兄ちゃんっ! 僕こんなにたくさん見たことない―――キレイ……」
良かった…。
頬を上気させている男の子に達哉は微笑み返す。
不器用な方法でしか何もしてやれない。
それなのに笑いかけてくれる…。
昔の兄さんも今の俺のような気持ちだったんだろうか…?
弟というのはこんな感じなのだろうか…。
男の子は夢中で達哉の腕を揺らす。
「どうやるの? どうすればそんなにたくさん作れるの?」『―――簡単だ…優しく守るように息を吹き込めばいい…大切な人を守ってあげるように』
――――――!!
不意に口をついて出た言葉に達哉は驚愕した。
聞いたことのあるセリフ…。
それは確か昔に聞いたことのあるもの…。
誰が言っていた?
お姉ちゃん―舞耶姉―じゃない…。
男の人だった。
兄さんじゃない……。
似ているけど違う、その人は眼鏡をかけていなかった。
それにその人はひどく驚いていた、俺の名前を聞いて。
じゃあ…あれは一体―――!?反射的に達哉は男の子の顔を見つめる。
どうして…
どうして俺は気づかなかったのだろう!
この子は―――
震える声で達哉は聞いた。
確かめずにはいられなかった。<.p>「…君の、名前は―――?」
男の子がきょとんと見つめ返し、名前を言おうと口を開いたその時、
「達哉くんっ!?」
背後から聞こえた懐かしい声に達哉は振り返ることが出来なかった。だって…その声は―――
「お姉ちゃんだ…!」
そう、舞耶姉…!
あれは―――あの子は俺だ…
昔の俺、周防達哉だった―――小さい頃、誰かにしゃぼん玉を作ってもらった。
自分ではちっとも作れなくて、涙がこぼれた。
その人は何も言わないばかりか、慰めてくれなかった。
兄さんならこうしてくれるのに、ああしてくれるのに…そう感じた次の瞬間、涙は消えた。
たくさんのしゃぼん玉が俺とその人を囲んだ。
俺に微笑んでくれた。
そして俺に教えてくれた―――。『大切な人を守ってあげるように―――』
優しく…そっと優しく息を吹き込むとしゃぼん玉は七色に輝いて宙に浮いた。
『出来たよっ』
そう笑いかけたときにその人はどこにもいなかった…。
最後に見たその人はとても哀しそうに遠くを見つめていた。今ならわかる…。
彼は――いや俺はただあの人だけを見つめていたんだ。
触れることも、言葉を交わすことも出来ないあの人だけを。
遠くでタツヤの声が聞こえた。満面の笑み、そして。
「出来たよっ」
◆◇◆
「消えたりしない…」
そう呟く自分の声に達哉はまどろみから目覚める。
(……夢…?)
だけど達哉の手の中にはしっかりとピンクの容器とストローが握り締められている。
顔を上げて達哉は目をみはった。
辺り一面に漂うしゃぼん玉。
ほのかに香る石鹸の香り…。「…舞耶姉……!?」
そんなはずがなかった。
でも、そんな気がした―――。
達哉を包む無数のしゃぼん玉は、風に舞い上げられてもはじけなかった。ずっと遠くまで―――。END>>
あ と が き
ペルソナ2 罰後の崩壊していくしかない向こう側の世界に帰った達哉が幼い自分と邂逅してしてしまう、なんて設定めためたなシロモノです。しゃぼん玉と向こう側の世界を重ねてみました。となると、さしずめフィレモンがシャボン玉が壊れないように見張ってるのに、ニャルラトホテプがちょっかい出して壊していくっていうカンジですか(苦笑)。
失った記憶=自分との「お姉ちゃん」との邂逅が、壊れていく世界を必死で留めようと頑張っている達哉へのフィレモンからの労いなのか、それともニャルラトホテプの嘲弄なのか…ってところも書きたかったんですが…アレ?(爆)
でも向こう側に達哉が帰っても、きっと1人じゃないと思うんですよね(矛盾してるジャン!)。
栄吉やリサ、淳の記憶がリセットされていたとしても、南条やエリーや城戸にブラウン、マキにゆきのに杏奈、それに克哉だっているじゃないですか。世界が崩壊するからといって諦めるような面々とは思えないですからね(笑)。達哉をさりげなくフォローしてるんじゃないでしょうか、影ながら。……ってことは、最後のしゃぼん玉はその人たちが影でふーふー言って作ったのかも!(核爆) 城戸がいるからなかなか割れないしゃぼん玉なんだよ、城戸マジック!(笑)あぁ…自分で言うのもなんだけどいい話がコメディになってしまう…(苦笑)
これ以上ひどいことにならないうちにあとがき終わります。『Lost Memory』に対するご意見ご感想ありましたらBBSかメールまでお願いします。では。注)この小説はROYさんのサイト「ACT three」に贈らせてもらいました。
諸事情により2002.10.08に加筆・修正いたしましたが、内容および本筋の変更はありません。
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